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2010/10/12 (火)

回る記憶の底のほう

ほんの少しだけ、むかしのはなし。
ほんの少しのむかしと云いつつ、もしかしたら、サーカスに入って間もない頃。
(メロルーシャ独白)




香りと記憶って、繋がることが多いと思う。
季節の花、お菓子、香水。それ以外にも、たくさん。

<サーカスの記憶>
汗くさくって土くさくっておまけに動物くさくって。
花やお菓子はともかく、香水の香りには、全くもって無縁の日常。
……だけど、今では。
汗くさいのも土くさいのもおまけに動物くさいのも。
どうやら、あの、懐かしい記憶を引っ張り出してくるらしく。
香りと記憶は繋がるのだと。余計にそう、思ったわけだ。

<ひとつの日常>
中でも。煙草のにおいは、トリプルアイスクリームの記憶と繋がっているって。
これは最近気がついたこと。

<甘い香りと苦い香りと其の記憶>
団長が普段吸わない煙草を吸うとき。
誰かと喧嘩した後。
もしくは何らかの事情で落ち込んでいるとき。
大抵、前者。どうやら喧嘩は弱いらしい。
ある日の、いつだったか。
散歩に出掛けるところだった俺は
運悪く、タイミング良く、薄暗い顔で煙草をふかす彼に捕まった。
せっかくの散歩に薄暗い顔した同行者なんて、ごめんだから。
それに、散歩は一人が好きだから。
当たり前の顔して隣を歩く、彼から逃げようと走り出しても、
終いには追い付かれて、見つかって。一度もうまく逃げ切れた試しがない。
当時の俺だって、子供にしては逃げ足は速かったし、身軽だった。
それなのに、逃げ切れたことがないんなんて。
今思い出しても、悔しい話。
………しかし、まあ。
アイスクリームワゴン。子供にとって、なんて魅力的な言葉だろう。
それも、好きなフレーバーをトリプルで頼んでもいいと言われれば。
多少うっとおしい同行者でも、我慢してしまうってものだ。
つまり、俺は、完璧に物につられてたってわけだ。
子供って、そういうところ、単純だよな。

<みっつ>
ショコラ、バニラ、ショコラ
気に入りの味のふたつを、みっつ。贅沢にみっつ。
好きなフレーバーは、昔も今も、変わらずにずっとこれ。
それなのに、それなのに。
フランボワーズ、シトロン、ピスターシュ
微塵も興味のなかったみっつを、俺が注文するより素早く、
奴は勝手に頼みやがったんだ。
……そのみっつだって、嫌じゃあ無かった。うん。
小さく期待を裏切られた感は、感じたけども。
これじゃ嫌だと駄々こねるほど馬鹿じゃなかったし
味は違えどアイスクリームのトリプルだ。
若干の憤りは、アイスクリームを受け取ったとき、引っ込んでしまう程度に単純だったんだ。
……子供、って。おばかだよね。

<小さく回る記憶の下側>
「はぁあ。あーあー」
気前よくアイスを買ってくれたのはいいけれど、奴は隣に座って溜め息ついてばかり。
アイスは美味しいが、隣は煙草くさい、うるさい。うっとおしい。
それから、それとなく話を聞いて欲しそうな気配。めんどくさい。
「………あんた。さっきから、何回ハァハァいってんの。」
「ハァハァって。それは慰めてくれているのかな。メリイ。」
「どう解釈すればそうなるわけ。……それと、メリイってよぶな。きもちわるい。」
「はいはい、メル。メロルーシャ。……何でメルは良くてメリイが駄目なのかな。
良いじゃないか、メリイも。可愛いし。」
「いやなものは、いや。」
「清々しいほど頑なだなあ。でも、まあ。懲りずにたまに呼ぶけどね。
何故って? メルが怒るところ、面白くって可愛いからさ。」
「………」
「冗談だよ、冗談冗談。ほらぁ、あっち向いて会話を断絶しようとしないで。」
「……あんた、だれかとケンカしたんじゃねえのかよ。思ってたより、元気でうざい。あと、煙。やだ。」
「ああ、ごめんごめん。」
「………」
「確かに腸煮えくり返りそうなくらい落ち込んでたけどね、メルと散歩してるうちに、そのことはすっかり忘れちゃってたよ。はっはっは」
「あっそ。良かったね。………そのわりには、ハァハァうっさかったけど。」
「……お嬢さん。子供にハァハァしてたとか言われると、周りにちょっとうっかり誤解を生みそうだから、そこは、溜め息って言ってくれるかな。」
「なんで?」
「何でも。」
「……やだって言ったら。」
「僕のことお父さんって言ってくれるなら、良いよ。」
「…………」
「ほら、ほら。冗談だって。アイス食べながら僕の存在をフェードアウトしようとしないで。
……そうだ、ところで。アイスのことだけど。メル、頼みたかったのはそのフレーバーじゃないだろう。
何で違うのが良いって言わなかったの。遠慮かい?」
「……は? わかってたのに、これ、たのんだわけ」
「うん、まあね!メルってば、歩いてる時いつもよりうきうきしてただろう。
そんな様子を可愛いと思いつつ、ちょっと悪戯したくなるのが、サーカスの団長ってものです。」
「……わけわかんねえ」

「メルが頼みたかったフレーバーは、そうだなあ。バニラショコラバニラ、かな。」

「………」
「あ。当たらずも遠からずってところだね。じゃあ、ショコラバニラショコラだ。」
「………あんた、きもちわるい。」
「やっばり!そうじゃないかと思ったんだ。
メルったら、クッキー争奪戦も、マカロン争奪戦も、いつもショコラとバニラだろ。
だからね、そうだろうと。
それにねえ、どうせなら。たまには違う味も食べてもらいたいと思って。世界にはこんなに美味しいフレーバーもあるんだよ。どう、僕のおすすめは、美味しかった?」
「思ってたより、おいしかった。……けど、つまり、なに。」
「半分こしようってことさ。」
「………」

街中で、煙草の煙のかおりと共に、ほんの一瞬だけ、フラッシュバック。
そんな下側の記憶。それ以上は、覚えてないけども。
彼は。表情から心情を察することが、ひとより得意なひとだったんだ。
それが特別なことだって気が付くのは、まだもう少し、大きくなってから。



(サーカス時代は周りの大人達から地味に甘やかされていた模様)
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